口腔機能発達不全症
今のお口の癖が、
将来の歯並びや顔立ちに影響します。
口腔機能発達不全症とは
口腔機能発達不全症(こうくうきのうはったつふぜんしょう)とは、「食べる、話す、呼吸するなどの、お口の正しい機能が年齢通りに育っていない状態」のことです。
病気や障害がないにもかかわらず、「うまく飲み込めない」「いつも口がぽかんと開いている」といったお口の機能の"未熟さ"がみられる状態で、2018年から健康保険が適用される疾患となりました。
主に子どもの歯並び、顔立ち、全身の健やかな発育に大きな影響を与えます。
発症の主な原因
口腔機能発達不全症を引き起こす原因は、単一の病気ではなく、「現代のライフスタイル(食生活や環境)」「お口の悪い癖」「解剖学的な特徴」などが複雑に絡み合っていることです。
主に以下の4つの要素が大きな原因と考えられています。
食生活の変化(噛む回数の激減)
現代の食卓には、ハンバーグ、パスタ、パン、ゼリーなど、あまり噛まなくても簡単に飲み込める「柔らかくて美味しい食べ物」が溢れています。
顎の骨や、お口の周りの筋肉(咀嚼筋・口輪筋)に十分な負荷がかかりません。その結果、筋肉が鍛えられず、顎の骨も正常な大きさに発育しなくなります。
日常的な「お口の悪い癖(悪習癖)」の定着
幼少期からの何気ない習慣が、お口の機能を育てる邪魔をします。
- 長期の指しゃぶり・おしゃぶり
前歯の間に隙間を作り、そこから舌を突き出す悪い癖(舌突出癖)に発展します。 - アレルギー性鼻炎・扁桃肥大
鼻が詰まっているため、生きるために仕方がなく「口呼吸」が習慣化します。口呼吸が定着すると、常に口が開いた状態になり、舌が正しい位置(上顎の天井)から下に落ちてしまいます。
体の「姿勢」の崩れ
スマートフォンの普及やタブレット学習の増加により、子どもの姿勢が悪くなっています。
猫背で頭が前に出た姿勢(ストレートネックなど)が続くと、下顎が後ろに引っ張られます。これにより口が開きやすくなり、正常な噛み合わせや正しい飲み込み(嚥下)の運動ができなくなります。
生まれつきの構造的な特徴(解剖学的要因)
お口の中の紐(ひも)の長さが原因になっているケースもあります。
舌小帯短縮症(ぜっしょうたいたんしゅくしょう)
舌の裏側にある筋(ひも)が生まれつき短いため、舌を上顎の天井に持ち上げることが物理的に困難です。これにより、上顎が広がらずに狭くなり、正しい発音や飲み込みができなくなります。
診断・治療の対象年齢
口腔機能発達不全症は、原則として「18歳未満(高校生まで)」が保険診療での診断・治療の対象となります。
放置した場合に起こる影響
歯並び・噛み合わせへの影響(ドミノ倒し的な悪化)
お口の筋肉のバランスが崩れたまま成長すると、歯並びは自然に治るどころか、年齢とともに悪化していきます。
重度の出っ歯・ガタガタ歯の定着
顎の骨が十分に横に広がらないため、永久歯が並ぶスペースが圧倒的に不足し、重度の叢生(でこぼこ)や八重歯、出っ歯になります。
大人になってからの「抜歯矯正」や「外科手術」のリスク増大
子どものうちに骨格のズレやスペース不足を解消していないため、大人になってから矯正をしようとした場合、健康な永久歯を4本抜くリスクや、顎の骨を削る外科手術が必要になるリスクが格段に跳ね上がります。
お顔立ち・発育への影響(アデノイド顔貌)
常に口を開けて呼吸する「口呼吸」が長期間続くと、骨格そのものの形が変わってしまいます。
締まりのない面長な顔立ち(アデノイド顔貌)
常に口がぽかんと開いていることで、下顎が下や後ろにだらしなく伸びやすくなり、面長で顎のラインがぼやけた顔立ちになりやすくなります。
表情筋の未発達
口元の筋肉(口輪筋)が使われないため、口角が下がり、いつも眠そうに見えたり、不満そうな表情に見えたりすることがあります。
全身の健康・精神面への影響(睡眠・脳への影響)
お口の機能の遅れは、呼吸の質の低下を招き、子どもの全身の成長を阻害します。
睡眠の質の低下による「成長ホルモン」の分泌不足
口呼吸は気道を狭くするため、寝ている間にいびきをかいたり、軽微な酸欠状態(睡眠時無呼吸症候群の予備軍)になったりします。これにより深い睡眠がとれず、身長の伸びや全身の発育に影響が出ることがあります。
集中力の低下・イライラ(学力への影響)
日中も脳に十分な酸素が行き渡りにくくなるため、「日中いつも眠そうにしている」「学校の授業で集中力が続かない」「落ち着きがなくイライラしやすい」といった精神面・行動面への悪影響が指摘されています。
風邪やアレルギーの発症リスク上昇
天然の空気清浄機である「鼻」を使わず、ウイルスや細菌、冷たく乾燥した空気を直接喉から吸い込むため、風邪、扁桃炎、アレルギー性皮膚炎(アトピーなど)、喘息にかかりやすくなります。
胃腸への負担(肥満や低体重)
食べ物をよく噛まずに丸飲みするため、消化不良を起こしやすく、栄養が十分に吸収されずに低体重になったり、逆に満腹中枢が働かずに肥満の原因になったりします。
主な症状のチェックリスト
1.「食べる・飲み込む」ときの症状
咀嚼(噛むこと)や嚥下(飲み込むこと)の筋肉や連動が未熟なため、食事の際に見落としがちなサインが現れます。
- 食べるのが異常に遅い、または早すぎる(丸飲み)
- 食べ物をしっかり噛まずに、水やスープで流し込む
- お口を閉じて噛めず、クチャクチャと音を立てて食べる
- お口の中にいつまでも食べ物を溜め込んでいる
- 硬い食べ物を嫌がり、柔らかいものばかり好む
- 錠剤やお薬をうまく飲み込めない
2.「話す(滑舌)」ときの症状
舌の筋肉や唇の閉鎖力が弱いため、言葉の発音に影響が出ます。
- 特定の音(サ行、タ行、ラ行など)がもつれたり、聞き取りにくかったりする
- 話すときに舌が前歯の間から突き出て見える
- 全体的にボソボソとした話し方で、聞き返されることが多い
3.「呼吸・お口の構え」の症状
筋肉の弛緩や骨格の発育不足により、お口の周りの見た目や睡眠時に症状が現れます。
- いつも「ぽかん」と口が開いている(口呼吸)
- 唇が乾燥して荒れやすい
- 寝ているときに「いびき」をかく、または激しい「歯ぎしり」がある
- 口を閉じようとすると、下顎の先(梅干し状のシワができる部分)に強い力が入る
- 食べ物や飲み物が口の端からこぼれやすい
保護者が気づくべきサイン
日常生活の中で、お子様に以下のような様子が見られる場合、口腔機能発達不全症の可能性があります。
食べる・飲む
- 離乳食や食事の進みが遅い、いつまでもペースト状のものを好む
- 食べ物をうまく噛み砕けず、丸飲みしてしまう
- クチャクチャと音を立てて食べる、食べるのが異常に遅い
話す・呼吸する
- 特定の言葉(サ行、タ行、ラ行など)が聞き取りにくく、滑舌が悪い
- いつもぽかんと口が開いている(口呼吸をしている)
- 寝ているときにいびきをかく、または歯ぎしりをする
歯並びへの影響との関係
口腔機能発達不全症と歯並びの乱れは、お口の周りの筋肉のバランスと顎の骨の発育を通じて深く結びついています。
口呼吸や舌の悪い癖が定着すると、舌が上顎の天井から下に落ち、顎の骨が横に十分広がりません。その結果、永久歯が並ぶスペースが不足し、重度の叢生(でこぼこ)や八重歯、出っ歯につながります。
お口の筋肉のバランスが崩れたまま成長すると、歯並びは自然に治るどころか年齢とともに悪化していきます。子どものうちに骨格のズレやスペース不足を解消していない場合、大人になってから健康な永久歯を抜く矯正や、顎の骨を削る外科手術が必要になるリスクも高まります。
当院で行う治療の内容
口腔機能発達不全症の治療は、薬や手術ではなく、お口の周りの筋肉や正しい使い方を育てる「リハビリテーション(トレーニング)」が主体となります。
当院では、健康保険を適用した機能訓練と、必要に応じて小児矯正(自費診療など)の装置を組み合わせ、根底にある原因(ハードとソフトの両面)にアプローチします。
1.MFT(口腔筋機能療法):お口の筋トレ
舌や唇、頬の筋肉を正しく動かすための、理学療法のようなトレーニングです。歯科衛生士の指導のもと、クリニックとご自宅で継続して行います。
- 舌のトレーニング(スポットの習得)
舌の正しい定位置(上の前歯の少し後ろにある、ぽっこりした膨らみ=スポット)に、いつも舌をピタッと吸い上げられるように鍛えます。 - 「あいうべ体操」や「ポカンX」などの活用
お口の周りの筋肉(口輪筋)を鍛え、意識しなくても自然と口が閉じる「唇の閉鎖力」を養います。 - 正しい飲み込み(嚥下)の練習
話すときや食べ物を飲み込むときに、舌を前に突き出さない(前歯を押さない)正しい喉の使い方をマスターします。
2.マウスピース型装置(機能的矯正装置)の活用
取り外しができる柔らかいマウスピース(プレオルソ・T4K、マイオブレイス、ムーシールドなど)を就寝時や日中の数時間装着します。
歯を無理に引っ張るのではなく、装置の形状を利用して「舌を正しい位置へ持ち上げる」「口呼吸から鼻呼吸への転換を促す」ためのサポートを行います。装着しているだけで、お口の周りの筋肉が正しい働きを覚えるため、MFTの効果を格段に高められます。
3.食習慣・生活習慣の指導
毎日の食事の「環境」や「姿勢」を見直すことで、お口が正しく育つ土台を作ります。
- 姿勢の改善
足が床につかない状態で食事をすると、顎に余計な力がかかります。足台を置くなどして、骨盤を立てて正しく座る指導を行います。 - 食べ方の工夫
前歯でしっかりと「噛み切る」経験を増やすため、食材の大きさや硬さを工夫するアドバイス(例:具材を少し大きめにカットするなど)を行います。
4.構造的な問題へのアプローチ(外科的処置)
生まれつきのひもの短さが原因である場合、環境調整だけでは限界があります。
舌小帯(ぜっしょうたい)の切除
舌の裏側の筋が短く、舌が上顎に全く届かない「舌小帯短縮症」などの場合は、必要に応じて専門の医療機関と連携し、筋を少し切って伸ばす簡単な小手術(小帯切除術)をご提案することがあります。処置後にMFTを行うことで、舌が見違えるように動くようになります。
自宅でできるトレーニング
口腔機能発達不全症のトレーニング(MFT)は、歯科医院だけでなく「ご自宅での毎日の継続」が最も重要になります。
歯科医院を「塾」、ご自宅を「宿題」に例えると分かりやすいかもしれません。どれほど歯科医院で正しい方法を学んでも、週に1回や月に1回の通院だけでは、長年染みついたお口の癖を直すことはできません。
家庭でできるケアと習慣
特別な道具を使わなくても、毎日の「食事」「姿勢」「遊び」を少し意識するだけで、子どものお口の筋肉はみるみる育ちます。ご家庭で以下の4つのポイントを習慣づけていきましょう。
1.食事のときの「正しい姿勢」を整える
椅子の高さを調整して足の裏が床(または足置き台)にピタッとつくようにすると、骨盤が立って背筋が伸び、しっかり噛んで正しく飲み込む嚥下運動がスムーズに行えるようになります。
2.食材の「大きさ・硬さ」を工夫する
ハンバーグや野菜などを前歯でかじり取って食べる大きさで食卓に出すと、前歯で噛み切る動作が唇の力を鍛え、奥歯ですり潰すことで顎の骨の横幅が自然と広がります。
3.「ながら食べ」「だらだら飲み」をやめる
食事中は画面を消し、口を閉じて左右の奥歯で30回しっかり噛み、口の中に食べ物があるときは水分で流し込まないことをルールにすると、唾液の分泌が促され、丸飲みの癖を解消できます。
4.遊びの延長で「お口の筋トレ」を取り入れる
退屈なトレーニング(MFT)もおもちゃやゲーム感覚を取り入れることで、子どもは自発的に楽しんでくれます。
以下のような「お口を使った遊び」を日常に取り入れます。
- 風船膨らませ・吹き戻し(ピロピロ笛):唇と頬の筋肉を鍛え、口呼吸の改善に役立ちます。
- ぶくぶくうがい:お水をお口に含み、頬が破裂しそうなほど強く交互に膨らませてうがいをします。
- シャボン玉・にらめっこ:唇をすぼめたり、ひょっとこ口をしたりして表情筋を動かします。
当院の治療の特徴と強み
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矯正と機能訓練を組み合わせた包括的アプローチ
顎を広げるための小児矯正(拡大床などのハード面)を行うだけでなく、お口の周りの筋肉を鍛えるトレーニング(MFTなどのソフト面)を同時に行うのが当院の最大の特徴です。
顎の土台(骨)を整えながら、筋肉の正しい使い方(機能)をマスターすることで、治療期間を短縮し、将来的な大人になってからの抜歯リスクを最小限に抑え、治療後の「後戻り」も強力に防ぎます。 -
ご家庭に寄り添う丁寧なサポート・食育指導
お口の機能発達には、毎日のご家庭での「食事環境」や「姿勢」が深く関わっています。
当院では、クリニック内での指導にとどまらず、「食事のとき椅子の足元をどう整えるか」「どんな硬さや大きさの食材がお口を鍛えるか」といった具体的なアドバイスをご提供。親御様がお一人で抱え込まず、親子で楽しく取り組めるように二人三脚でサポートいたします。 -
総合歯科医院ならではの高い連携力
当院は矯正専門医院とは異なり、虫歯の治療から予防メインテナンス、小児矯正までを一貫して行う総合歯科医院です。
トレーニングや矯正装置の期間中に、もし虫歯ができそうな予兆があっても、別の医院に転院することなくその場ですぐに迅速な処置や高濃度フッ素塗布などの予防処置が可能です。大切なお子様のお口の健康を、一つの窓口で長期的に見守り続けます。
よくある質問
- 口腔機能発達不全症の治療期間はどのくらいかかりますか?
- 治療期間は、お子様の症状の程度、開始年齢、ご家庭でのトレーニング(MFT)の継続状況によって個人差があります。
口腔機能発達不全症の治療は、お口の筋肉や正しい使い方を育てるリハビリテーションが主体のため、一般的には数ヶ月~1~2年程度の継続が必要になる場合が多いです。マウスピース型装置や小児矯正を併用する場合は、さらに長期の通院・管理が必要になることもあります。
週に1回や月に1回の通院だけでは十分な効果は得られにくく、ご自宅での毎日の継続が、治療期間を短くするうえでも重要です。 - 子どもが嫌がってトレーニングを続けられるか心配です。どうすればいいですか?
- お子様が嫌がるのは、トレーニングが面倒に感じる、正しい方法が分からない、成果がすぐに見えないなど、さまざまな理由があるためです。
当院では、風船を膨らませる、吹き戻し(ピロピロ笛)、シャボン玉、にらめっこなど、遊びの延長でお口の筋肉を鍛える方法もご提案しています。ご褒美シート(シールラリー)や、親子で一緒に取り組むなど、無理なく続けられる工夫を一緒に考えます。
親御様お一人で抱え込まず、歯科衛生士や歯科医師にもご相談ください。お子様のペースに合わせて、少しずつ習慣づけていくサポートを行います。 - 口腔機能発達不全症は、小学生以降でも改善できますか?
- はい、18歳未満(高校生まで)であれば、保険診療での診断・治療の対象となり、小学生以降でも改善を目指すことができます。
ただし、早い時期から始めるほど、お口の癖や顎の発育への影響を抑えやすくなります。トレーニング(MFT)は歯科医院での指導に加え、ご自宅での毎日の継続が最も重要になります。どれほど歯科医院で正しい方法を学んでも、週に1回や月に1回の通院だけでは、長年染みついたお口の癖を直すことはできません。 - 兄弟や親にも同じような傾向がある場合、遺伝的な要因はありますか?
- はい、ご家族に同じような傾向が見られる場合、遺伝的な要因は大いに関係しています。
ただし、お口の問題(歯並びの悪さや口腔機能発達不全症)が親から子へ引き継がれるルートには、大きく分けて「骨格の遺伝(先天的なもの)」と「生活習慣の遺伝(後天的なもの)」の2つの側面があります。

